【命を守るプロジェクト】
(山岳救助事故に対応する取り組みについて)
     
           八代広域行政事務組合消防本部(熊本県)
          鏡消防署泉分署消防1係長 小 野 康 成
 3 山岳事故の覚知について
 登山者は、単独や数人の仲間又は10数名を超える団体と様々であるが、登山者の大半が現職を退かれた高齢者であり、女性も多く見られる傾向である。その中には、過去に脳疾患や心疾患を患った人も少なくはない。
それだけ多くの登山者があれば、事故の発生率も高くなる必然性が生まれ、登山者の事故予防に「自己責任」という言葉が浸透しているが、山中では急激な天候の変化や、突発的な落石などによる「自己責任」の範疇を超える不測の事態も考慮しなければならない。
以前においては、傷病者が発生した場合、傷病者を事故現場に残し、同行者の仲間が下山して救助を求める例がほとんどであった。また、単独の登山者が一夜明けても自宅に帰ってこないと、その家族から消防や警察に通報があり、救助捜索に出場したケースが見られる。
しかし、近年は、深山幽谷と言われる五家荘の山域であっても、携帯電話の普及と通話エリアが広がり、事故現場から直接通報が容易になってきている。
さらに、ベテランの登山者や団体登山のリーダーとなる人は、携帯電話の不通エリアをカバーするため無線機を携行し、緊急の事態に備えていることが多いことから、今後は事故発生と同時に、山中から通報してくるケースが予想される。これらは事故発生を知らせる手段としては最善ではあるが、その反面、通報を受ける当消防本部や警察の通信指令室に、必ずしも当該山域に詳しい署員又は登山経験者がいるとは限らず、通報時、傷病者数や容体等は知ることができても、明確な目標物が皆無に等しい山中では、「稜線」・「迫」・「鞍部」・「出合」などと言った登山者同士では、ごく普通に通用する用語であるが、これら山登り特有の用語と表現は、通報を受ける側にとっては困惑し、事故現場の特定が困難になることが大いに予想される。
それに、不心得な登山者の中には、登山地図やコンパスも所持せず、自ら登り始めた場所や登山ルート名でさえ伝えられない事も懸念しなければならず、消防活動における初動の遅延を招きかねない。
そう言った観点と想定を含め、我々消防は山岳という環境下にも命のレスキューエリアがあることを忘れてはならないし、それらの弊害を改善する対策が必要であると言える。

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